酒販店を母体とする久住蒸溜所は、2025年4月に蒸溜所初のシングルモルト「THE FIRST」を送り出した後、複数のシリーズによって酒質の方向性を整理してきた。今回の「tabi」始動により、「sora」「michi」と合わせた三つの柱がそろう。初回商品を話題にして終わるのではなく、継続的に蒸溜所の個性を伝える段階へ進んだことを示す展開だ。
三系列は、それぞれ異なる役割を持つ。「sora」は季節や情景を切り口に、原酒の多様な表情を見せるシリーズ。「michi」はノンピーテッド原酒を中心に、久住らしい果実味や麦芽の甘さを磨きながら、酒質の軸を追うシリーズとされる。これに対して「tabi」は、特徴の強い原酒も取り込みながら、全体の均衡によって新しい味わいを組み立てる。定番の輪郭を定める「michi」と、表現領域を広げる「tabi」を分けたことで、試行的な原酒を使いながらもブランド全体の方向性がぼやけにくい構造になった。
「tabi#01」で示された香味の流れは、前半に明確な甘さを置き、そこから果実味と穏やかな木香を余韻へつなぐものだ。単に甘口を目指したというより、口に含んだ直後の親しみやすさを入口にしつつ、後半で熟成由来の要素を重ねる設計と考えられる。アルコール度数は53度と発表されており、香味の密度や口当たりの厚みを保ちやすい設定だ。まずは少量をそのまま味わい、その後にわずかに加水すると、甘さの質や果実香の広がり、木香との境目を比較しやすいだろう。
一方、公開情報では使用樽の種類、熟成年数、各原酒の構成比率などは明らかにされていない。そのため、特定の樽が甘さや果実味の中心だと決めつけることはできない。むしろ今回の焦点は、目新しい樽の名称を前面に出すことではなく、異なる個性を持つ原酒をどのような順序と強度で感じさせるかという調合の設計にある。「個性的な原酒を使うこと」と「個性を突出させること」は同じではなく、後者を抑えて全体の完成度を優先する姿勢が「tabi」の性格になりそうだ。
国内のクラフトウイスキー市場では、最初のシングルモルトを発売した後、品質の再現性と商品の分かりやすさをどう築くかが次の課題になる。久住蒸溜所の三系列化は、一つの味だけを蒸溜所の正解とするのではなく、基準となる酒質、季節的な表現、探索的な調合を別々の文脈で提示する試みだ。飲み手にとっては各商品の違いを比較しやすくなり、販売店にとっても、それぞれのボトルが担う役割を説明しやすくなる。ブランドを単発の商品ではなく、継続して追える体系へ変える意味は小さくない。
コレクターにとって「tabi#01」は、第三のシリーズの出発点という記録上の意味を持つ。ただし、公開情報では限定本数が示されておらず、番号付きの商品名だけを根拠に希少性を断定すべきではない。短期的な入手難度よりも、今後の番号違いで原酒構成や香味の重心がどう変化するかを追う方が、このシリーズの意図に沿った楽しみ方になるだろう。「michi」と飲み比べれば、蒸溜所が考える基準の酒質と、そこから意図的に広げた表現との差も見えやすい。
公式発表では、「シングルモルト久住 tabi#01」は2026年7月31日の発売予定、容量700ミリリットル、参考小売価格1万2000円税別と案内されている。特約店を通じた酒販店や百貨店のほか、自社通販サイトと蒸溜所の店舗スペースでも販売が予定されているが、実際の発売日、価格、入荷状況、在庫、購入方法は店舗によって異なる可能性がある。購入を検討する際は、久住蒸溜所の公式発表または各販売店のページで最新情報を確認してほしい。
参考情報:有限会社津崎商事および久住蒸溜所による「シングルモルト久住 tabi#01」の商品発表。発表日2026年7月15日。