江井ヶ嶋酒造の「香掬」シリーズから、第四弾となる「香掬 日本酒カスク 10年」が登場した。発表によると、日本酒の熟成に使用したオーク樽でモルト原酒を10年間熟成し、アルコール度数50%で瓶詰めされる。一般的なバーボン樽やシェリー樽とは異なり、日本酒を経た樽が長期熟成のシングルモルトにどのような輪郭を与えるのかが、このボトルの中心的なテーマとなる。
江井ヶ嶋酒造は日本酒を主軸とする酒蔵でありながら、1919年にウイスキー製造免許を取得し、長期間にわたって蒸留と熟成を続けてきた。近年は「あかし」に加え、複数樽の組み合わせを打ち出す「EIGASHIMA」、樽ごとの個性に焦点を当てる「香掬」と、商品の役割を分けながら蒸留所の表現領域を広げている。今回の日本酒カスクは、単に珍しい樽を採用した企画ではなく、日本酒とウイスキーを同じ蔵で扱ってきた歴史を商品設計へ結び付ける試みといえる。
日本酒熟成樽については、バーボン樽やワイン樽ほど市場で共有された香味の基準が確立されていない。樽材の種類、過去に入っていた日本酒の性格、使用期間、樽内部の状態などによって結果が変わるため、「日本酒カスク」という名称だけで味わいを一括りにすることは難しい。その不確定さは扱いにくさである一方、既存の樽カテゴリーでは得にくい蒸留所固有の表現を生み出せる余地でもある。
公表されたテイスティング情報では、熟した果実、あんず、蜜を含んだりんご、穏やかなスモークが香りの軸とされ、口当たりはまろやかで、甘みと酸味の調和が示されている。余韻には乳酸を連想させる軽さ、木質感、シナモン系のスパイスが挙げられた。生産者が説明する米由来の甘みや旨味は、米の風味がそのまま移るというより、柔らかな甘さ、丸い酸、熟した果実香が重なることで、和酒を思わせる印象として表れると捉えるほうが理解しやすい。
注目すべきは、日本酒樽を短期間の仕上げではなく、10年間の熟成に用いている点だ。長期熟成ではアルコールの刺激が落ち着き、樽由来の香味が原酒へ深くなじむ一方、木質感や渋みが過度に強くなる可能性もある。公表された香味構成にウッディさとスパイスが含まれていることからも、この一本では果実の甘さ、乳酸的な軽やかさ、長期熟成による木の要素がどの位置で均衡しているかが飲みどころになる。
アルコール度数50%という設定も、樽香を前面に押し出すだけでなく、10年熟成原酒の厚みを保ちながら香味を確認しやすい強度を意識したものと考えられる。ストレートでは熟した果実と木質感を追い、少量の加水では酸味や乳酸を思わせるニュアンスの変化を確かめたい。和菓子との組み合わせも提案されているが、穏やかな甘さを持つ菓子だけでなく、餡や干し果実、シナモンを使った菓子との相性にも関心が向く。
発表時点で瓶詰本数は850本とされており、蒸留所の定番的な味を示す商品というより、特定の樽履歴を記録する限定的なボトリングとしての性格が強い。収集対象として希少性に注目されやすい一方、日本酒熟成樽を10年間使用した結果を実際に確かめられる点では、開栓して飲む意義も大きい。同じ条件を容易に再現できないからこそ、「香掬」が掲げる樽ごとの個性が明確に表れる一本になりそうだ。
発表では公式オンラインショップおよび江井ヶ嶋蒸留所での先行販売、内容量500ミリリットル、希望価格17,600円と案内されている。ただし、販売時期、価格、在庫、購入条件は変更または更新される可能性がある。検討する際は、江井ヶ嶋酒造の公式発表または各販売店の商品ページで最新情報を確認してほしい。
参考情報:江井ヶ嶋酒造株式会社「日本酒熟成樽で10年。江井ヶ嶋酒造が描く新たなジャパニーズウイスキー『香掬 日本酒カスク 10年』発売」